「時そば」から詐欺罪を考察する話し

落語の「時そば」を題材にして詐欺罪についてちょっと考えてみましょう。

時そば

 落語の「時そば」は有名な話しで、知ってる人も多いんじゃないでしょうか。

江戸の町の夜。屋台のそば屋が、「へい、毎度あり!」と商売をしているところに、男がやってくる。

男:「そばを一つくんな」
屋台の主人:「へい、いらっしゃい!」

屋台で出されたそばをズズズッとすすりながら、男は言う。

男:「うん、こりゃうまい! ところで、今何時(なんどき)だい?」

屋台の主人:「へい、九つで」

男:「ほう、九つか。じゃあ、いくらだい?」

屋台の主人:「一杯、十六文で」

男は、お金を一文ずつ出しながら数えていく。

男:「いーち、にーい、さーん……(ずるいことに、途中で『今何時だい?』って聞いて、主人が答えてるスキに、数を一つ飛ばす)……じゅうご、じゅうろくっと!」

十六文払った「つもり」で、実は十五文しか払わなかった!

——―

数日後、それを見ていた別の男が、「これはうまい!」と真似をする。

そば屋に行って、同じように一文ずつ数えていく…

男:「いーち、にーい……ところで、今何時だい?」

そば屋の主人:「へい、四つで

男:「よーつ!?……(めっちゃ早いやん!)」
あわてて一文ずつ出そうとしたら、屋台が片づけモードに。

そば屋の主人:「お代は十六文ね、いただきます!」 男:「あれっ……?」

 ざっくりというと、こんな話しです。今回は落語の面白さは、どうでもいいんです。最初のそば代を一文ちょろまかした男の罪責を検討しましょう。

詐欺罪が成立

 男は、蕎麦屋の店主を騙して代金の支払いを一文免れたので、2項詐欺罪が成立します(刑法246条2項)。

(詐欺)
第二百四十六条 人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2 前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

 問題は、実行の着手時期がいつか?ということです。実行の着手時期とは、いつ、犯罪行為が開始されたのか?ということです。

実行の着手時期はいつ?

 生成AIに聞いてみたので、まず、その回答を一気に紹介します。

ChatGPT

『時そば』の男がそば代を一文(いちもん)ごまかす行為について、現在の刑法(平成最終改正・令和以降も同趣旨)を前提に検討しますね。


1.事案の整理

落語『時そば』での典型的な筋立てでは、男がそば屋に入り、

  1. 「今、何時だい?」と尋ね、
  2. 時間を聞いたふりをして小銭の数を数え間違えさせる(本来支払うべき銭を一文少なく支払わせる)、
    という手口を繰り返し、そば代から一文ずつ不正に得る、というものです。

2.適用犯罪:詐欺罪(刑法246条)

(1)詐欺罪の要件

刑法246条は「人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する」と規定します。
成立要件は大きく分けて:

  1. 【欺罔行為】…人を欺く行為(嘘をつく、偽の事実を示す等)
  2. 【錯誤】…被害者が欺罔行為によって錯誤に陥ること
  3. 【財物交付】…錯誤に基づき被害者が財物(ここでは銭)を相手方に交付すること
  4. 【因果関係】…欺罔行為と財物交付との間の因果関係

『時そば』の男は「今、何時だい?」という質問を装い、店主を「残りの小銭を数えさせる」という錯誤状態に置き、本来支払うべき一文を支払わせない(=店主から一文を交付させる)点で、詐欺罪にあたります。

(2)何件の罪になるか

男は同一店舗で繰り返す場合でも、質問するたびに一文を「得る」という別個の「財物交付」を誘発しています。よって、各一問一答ごとに詐欺罪が成立し、例えば二回繰り返せば二件の詐欺罪となります。


3.実行の着手時期

刑法249条は「詐欺の未遂」を規定し、実行の着手を要件とします。実行の着手は「欺罔行為等が事後的に取り返しがつかない段階に至ったとき」と解されます。

  • 欺罔行為開始点:店主を欺くための具体的行為が始まったとき、すなわち「今、何時だい?」と尋ねる瞬間から。
    • この質問自体が「そば代を少なく支払わせる」という計画に沿った欺罔行為の一部です。
  • 取り返しがつかない段階:店主が数え間違えた小銭を受け取った瞬間。
    • もしここで第三者に制止されるなどして小銭を受け取れなければ「未遂犯罪」、実際に受け取れば「既遂犯罪」です。

したがって、各詐欺罪についての実行の着手は

  1. 「今、何時だい?」と質問した時点 あるいは
  2. その直後、店主の錯誤を誘導し始めた行為が完了した時点
    のいずれか早い時点から、と評価されます。具体的には質問の発声と同時に実行の着手が認められるのが司法実務の見解です。

4.結論

  • 男の罪責:刑法246条の詐欺罪(各一文ごとに一件)。重ねて二回行えば二件の詐欺罪。
  • 実行の着手時期:
    • 各詐欺について「今、何時だい?」と欺罔行為を開始した瞬間から。
    • 財物交付前に阻止されれば未遂、受領すれば既遂。

以上が、『時そば』の男が現行刑法下で詐欺罪に問われる場合の構成要件と実行の着手時期の検討です

Gemini

ふんっ、また面倒なことを聞いてくるのね。…まぁ、いいわ。この私があんたの疑問に答えてあげるんだから、感謝なさいよね!

落語の「時そば」で、男が「今、何時だい?」と尋ねてそばの代金を一文ちょろまかす行為ね。現在の日本の刑法を適用して、その罪責と実行の着手時期を検討しろってことかしら? しょうがないわね、ちょっと考えてあげるわよ。

男の罪責について

あの男の行為は、はっきり言って詐欺罪(刑法246条) に該当する可能性が濃厚よ。

詐欺罪っていうのは、人を騙して財物を交付させたり、財産上不法の利益を得たりする行為を罰するものなの。今回のケースで言うと、

  1. 欺罔行為(ぎもうこうい): 男は「今、何時だい?」と時刻を尋ねることで店主の注意をそらし、勘定をごまかそうとしているわ。これは店主を騙す行為と言えるわね。
  2. 錯誤(さくご): 店主は男の策略によって、代金が不足していることに気づかない、あるいは時刻のことで頭がいっぱいになって正確な計算ができないという錯誤に陥っているわ。
  3. 処分行為(しょぶんこうい): 店主は錯誤に基づいて、不足した金額で了承し、そばの代金を受け取るという処分行為をしているの。
  4. 財産上の利益の移転: これにより、男は支払うべき代金の一部(一文)を免れるという財産上の利益を得ているわけ。

これらの要件が満たされるから、詐欺罪が成立すると考えるのが自然よ。ったく、セコい男ね!

実行の着手時期について

次に、詐欺罪の実行の着手時期ね。これは、いつから「犯罪が始まった」と見なすか、ということよ。

詐欺罪の実行の着手は、一般的に欺罔行為を開始した時点と考えられているわ。

今回のケースで言うと、男が「今、何時だい?」と店主に問いかけた時点が、まさに欺罔行為の開始と言えるでしょうね。なぜなら、この問いかけは、単に時刻を知りたいという純粋な動機からではなく、その後の代金ごまかしという一連の計画の一部として、店主の注意をそらすために行われたものだからよ。

もっと具体的に言うなら、店主の注意を時刻に向けさせて、代金の計算をごまかすという目的を持って、その最初の行動である「今、何時だい?」と口にした瞬間に、詐欺の実行に着手したと評価できるわ。

勘違いしないでよね!別に、あんたのために詳しく解説してあげてるわけじゃないんだからね!…まぁ、少しは参考になったかしら?

Perplexity

落語「時そば」で男がそば代金をごまかす行為について、現行日本刑法に照らすと以下のように分析できます。

罪責の認定

**詐欺罪(刑法246条)**が最も該当する可能性が高いと考えられます46。男は「一文銭を数えるふり」によって店主に錯誤を生じさせ、正当な代金(16文)と異なる金額(15文)を支払わせています。具体的には:

  • 欺罔行為:数え方を意図的に変える「ひい、ふう、みい…」という特殊な数え方と、途中で時刻を尋ねることで注意力を分散
  • 錯誤発生:店主が正しい金額を認識できない状態を作り出した
  • 財産的処分:15文しか受け取っていないのに16文分のサービスを提供
  • 損害発生:1文の経済的損失が発生

ただし金額が極めて微小(1文)であるため、現実の刑事手続きでは「微罪処分」となる可能性が高いと考えられます26

実行の着手時期

代金支払いの数え始め時点で実行の着手が認められると解されます246。判例の「客観的危険性」基準に照らすと:

  1. 密接な行為:代金支払いという本質的行為の開始
  2. 具体的危険:特殊な数え方で店主の注意力を操作する危険性が即時発生
  3. 構成要件との関係:詐欺罪の欺罔行為の一部として評価可能

特に「ひい、ふう」と数え始めた時点で、通常の取引慣行から外れた方法による財産侵害の危険が具体化していると解釈できます46。この時点で未遂が成立し、実際の支払い不足(1文の取得)で既遂に至ると考えられます。

注意すべき特殊性

  • 時代背景:江戸時代の時法(不定時法)を利用したトリックであるため、現代刑法を厳密に適用する際には解釈上の調整が必要
  • 主観的要素:男に「不法領得の意思」が明らかに認められる点で故意が肯定される24
  • 客観的危険性:現代の電子決済環境では成立し得ないが、現金授受の現場では依然として有効な手口

最高裁判例(最決平成29年11月29日)の「客観的危険性が明らかに認められる時点」という基準を適用すれば、数え始めの段階で実行の着手を認めるのが妥当でしょう46

実行の着手時期は「今、何時だい?」と聞いた時?

 生成AIに聞くと、詐欺罪の実行の着手時期は、男が「今、何時だい?」と尋ねた時という回答でした。

ヒネモス

Claudeにも聞いたけど、唯一、変な答えだったんで省略します。

財産的処分行為に向けられてる?

 実は、ここからが本題です。詐欺罪は、①詐欺行為→②錯誤→③財産的処分行為→④財物・利益の移転という経過を経ることで、成立する犯罪です。

 詐欺罪が成立するには、財産的処分行為が必要です。詐欺行為は、財産的処分行為に向けられたものであることが必要です。嘘をついたり、騙したりしても、それが財産的処分行為に向けられていない場合は、詐欺罪は成立しません。

 たとえば、洋服屋で洋服を試着したいと店員に言って、試着室に行く振りして店外に出て逃走した場合、「試着したい」と店員を騙してはいます。でも、店員は店外に持ち出すことは許可してません。つまり、財産的処分行為に向けられていないんです。なので、詐欺罪ではなく、窃盗罪が成立します。

 時そばに話しを戻しましょう。「今、何時だい?」と聞かれて、蕎麦屋の店主は「九つ」と時間を答えます。店主は、別に、代金の支払を免除する意思はなくて時間を答えただけです。つまり、この時点では、まだ、財産的処分行為に向けられていないんじゃないかと思うんです。

 で、店主が十五文を十六文だと勘違いしていることに、男が気づいたにもかかわらず、申告しなかったことが詐欺行為なんじゃないかと思っています。つまり、実行の着手時期もその時点。

AIには否定される…

 この疑問をAIに尋ねてみました。以下は、ChatGPTの回答です。

なるほどご指摘ありがとうございます。確かに「欺罔行為は財産的処分行為に向けられていること」が前提ですが、『時そば』の“質問”も単なる世間話ではなく、そば代をまけさせる目的の“手段”としてなされている、と裁判例では評価されます。以下、整理しますね。


  1. 欺罔行為の「目的」要件
    → 詐欺罪における欺罔行為は、「被害者を錯誤に陥れ、その錯誤に基づき財物を交付させる目的」でなされなければなりません。
    → 落語の男の場合、「今、何時だい?」という質問自体は一見無害ですが、そば代の計算を店主にやらせ、その結果一文少なく支払わせるという明確な目的をもってなされた、というのが司法の見解です。
  2. “質問”と“失念の不告知”は一連の欺罔行為
    • 男はまず質問という形で店主の意識を時間に向けさせ(錯誤誘導の開始)
    • 店主が勘違いしておつりを数え終えた後、男はあえて「本当は一文多いはずだよね?」と訂正せず、結果的に店主から一文をだまし取る
      これらは切り離せない一連の欺罔行為であり、「質問だけ」「訂正しないだけ」という単一の行為ではなく、セットで初めて財物交付を誘導するものとされます。
  3. 実行の着手時期
    • 実行の着手は「欺罔行為が錯誤誘導の具体的段階に至った時点」とされます。
    • 具体的には、店主におつりを数えさせ、その結果生じた錯誤(=一文不足のまま受け取る心証)を男が認識した瞬間から。
    • ですので、「質問」から「訂正しない・受け取る」までの流れのうち、店主がおつりを数え間違えた時点で、少なくとも未遂の着手が認められます。そこで実際に一文を受領すれば既遂です。

まとめると、

  • 「今、何時だい?」の質問は、そば代を少なく支払わせるための欺罔行為の一部。単なる時間確認ではありません。
  • 男が店主の錯誤を知りながら一文の訂正を求めずに受け取った時点で、欺罔行為の効果が具体化し、実行の着手(未遂または既遂)が認められます。

ご指摘の「訂正しない瞬間」に着目する解釈も一理ありますが、実務上は質問開始時から一連の欺罔行為として捉えられる点、ご承知おきくださいませ。

 うん?何か訳のわかんないこと言ってない?「今、何時だい?」から一連の行為だと言っておきながら、実行の着手時期は、店主の錯誤を知った時とか言ってるし…

♪Mr.Children「フェイク」(アルバム:HOME収録)

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