「大阪から東京まで、きっぷを1枚ください」
こちらとしては、これで話を終えたい。
できれば窓側で、お弁当を食べて、寝ている間に着きたい。
ところが、旅客営業規則はそう簡単には終わらせてくれません。
「どの種類のきっぷですか」
「どこで発売しますか」
「いつから発売しますか」
「その割引証、有効ですか」
こちらは旅行の準備をしているのに、向こうは契約の準備をしている。
今回は、第2章「乗車券類の発売」の第1節「通則」。第18条から第25条までを、枝番号の条文も含めて読んでいきます。
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- 1. 第18条 「きっぷ」で済ませたい人と、分類したい規則
- 2. 第19条 きっぷは駅で買う。 ただし、駅だけとは言っていない
- 3. 第20条 「この駅から」が基本。 でも、よその駅からも売ることがある
- 4. 第21条 指定券の発売は午前10時。 旅は1か月前から始まっている
- 5. 第21条の2 始発から終電まで。 でも、すべての窓口が開いているとは限らない
- 6. 第22条 「いい感じの席で」は、申込書に書きにくい
- 7. 第22条の2 特別なきっぷには、特別な条件がある
- 8. 第23条 突然の「貸切」。 ここは対象となる病気を正確に読む
- 9. 第23条の2 払いもどしも変更も、いつものルールとは限らない
- 10. 第23条の3 割引証は、旅行を始める前に出す
- 11. 第24条 割引の資格は、友達に貸せない
- 12. 第25条 割引証の「無効」と「使えない」は、書き分けられている
- 13. 改札に着く前から、旅は規則に支えられている
第18条 「きっぷ」で済ませたい人と、分類したい規則
第18条は、乗車券類の種類を定めています。
大きな分類だけで、次の6種類です。
| 分類 | 条文に登場する内訳 |
|---|---|
| 乗車券 | 普通乗車券、定期乗車券、普通回数乗車券、団体乗車券、貸切乗車券 |
| 急行券 | 特別急行券、普通急行券 |
| 特別車両券 | 特別車両券(A)、特別車両券(B)。それぞれ指定席・自由席に分かれる |
| 寝台券 | A寝台券、B寝台券 |
| コンパートメント券 | コンパートメントを利用するための券 |
| 座席指定券 | 座席指定券 |
しかも、定期乗車券は通勤・通学・特別車両に分かれ、特別急行券は指定席・立席・自由席・特定特急券に分かれます。

きっぷの家系図、思ったより大家族。
ここで押さえたいのは、「乗車券類」と「乗車券」は同じ範囲の言葉ではないこと。「乗車券類」が一家全体なら、「乗車券」はその中の一員です。
また、特急券の正式な分類は「特別急行券」。そして、その特別急行券は「急行券」という大きな箱に入っています。

特急なのに急行の仲間なの?

特別な急行なので
規則としては、筋が通っています。こちらの頭の中の整理棚が足りないだけです。
なお、これは種類を整理した条文です。名前が載っているからといって、今、すべての駅ですべての商品を買えるわけではありません。

メニューの分類表と、本日の販売メニューは別。
最初の条文から、なかなか油断できません。
第19条 きっぷは駅で買う。
ただし、駅だけとは言っていない
第19条の基本は、駅で、係員または券売機からきっぷを買うというものです。
ただし、普通乗車券以外の乗車券類は、会社が指定した駅で発売します。また、駅員のいない駅から有効になるきっぷは、その駅に隣接する駅員のいる駅で発売する、と定めています。
さらに、車内で発売する場合もあります。
対象は、きっぷを持たずに駅員のいない駅から乗った場合や、係員の承諾を得て、きっぷを持たずに乗った場合です。普通乗車券や急行券、寝台券など、条文に挙げられた券を車内で発売します。

なるほど。じゃあ毎回、飛び乗ってから買えばいいんだ!
…と、都合のいい部分だけ読んではいけません。
無人駅からの乗車や係員の承諾という条件まで、セットで読みましょう。
第3項では、会社が別に定めた場所や、発売を委託した場所での発売も認めています。
駅で買う、車内で買う、別に定めた場所で買う。
きっぷの販売場所にも、きちんと出入口が用意されているのです。
第20条 「この駅から」が基本。
でも、よその駅からも売ることがある
第20条によると、駅で発売するのは、原則として、その駅から有効なきっぷです。
「今ここにいる人は、ここから乗るだろう」
考えてみれば、自然な出発点です。
ただし、他の駅から有効なきっぷを発売することもあります。
つまり、「A駅で、B駅からC駅までのきっぷを買う」ということも、条文が予定しています。「出発駅まで行かなければ、その駅からのきっぷは買えない」という意味ではありません。
一方、車内で発売するきっぷは、その乗車に有効な普通乗車券や、乗っている列車に有効なものが基本。ただし、この先に乗る列車に有効なきっぷを発売することもあります。
規則の口調を少し崩すと、

まずは、今のご乗車の話をしましょう。この先の分も、扱うことはあります
という感じです。

車掌さんを見つけた瞬間に、来月の家族旅行の相談まで始める条文ではありません。
第21条 指定券の発売は午前10時。
旅は1か月前から始まっている
きっぷの発売日を定める第21条。
まず、本文の原則は「発売当日から有効となるものを発売する」です。そのうえで、きっぷの種類ごとに、前もって発売する場合を定めています。
| 種類 | 前もって発売する場合の基準 |
|---|---|
| 普通乗車券 | 有効期間開始日の1か月前から |
| 定期乗車券 | 有効期間開始日の7日前から |
| 団体乗車券・貸切乗車券 | 運送引受け後で、旅客の始発駅出発日の1か月前から |
| 自由席特急券・普通急行券・自由席特別車両券 | 有効期間開始日の1か月前から |
| 指定券 | 列車が始発駅を出発する日の1か月前の午前10時から。ただし、立席特急券は別に定める日から |
| 特定特急券 | 別に定める日から |
おなじみの「1か月前の午前10時」は、ここで登場します。
人気列車に乗りたい人にとって、旅行の開始時刻は、当日の発車時刻だけではありません。

1か月前の午前10時にも、心の発車ベルが鳴っています。
そして、条文で見落としたくないのが、基準は原則として「自分が乗る日」ではなく、その列車が始発駅を出発する日だという点です。
たとえば、ある列車が10月10日の夜に始発駅を出て、自分は途中駅から10月11日未明に乗るとします。この場合、通常の指定券の発売基準になるのは10月10日。発売開始は9月10日の午前10時です。
自分の日付は11日。でも、列車は10日から走っている。夜行列車は、乗る前からカレンダーをまたいでくるのです。
なお、未指定特急券は、指定した乗車日の対象列車群のうち、始発駅を最も早く出る列車を基準にする、と細かく定めています。
また、「1か月前」は、単純な「30日前」ではありません。前月の同じ日が基本です。前月に同じ日がない場合、たとえば5月31日出発分の通常の指定券は5月1日の午前10時発売となります。

カレンダーまで予習範囲です。
第2項以下にも、同時に使う指定券に合わせて普通乗車券などを発売する取扱い、一部の指定券について発売日を別に定める取扱いがあります。第2項の自由席特急券には、寝台を2人で使う所定の場合という限定もあります。
さらに、指定券を発売する団体・貸切の乗車券は、原則として出発日の11日前までに発売することや、発売委託先では別の発売日を定める場合があることも規定されています。

「きっぷは全部、1か月前の10時から」で覚えると、条文から静かに赤ペンが入ります。
実際には、JR西日本の定期券の案内では、新規・継続ともに14日前から購入できるとされています。購入時は、利用する会社・サービスの案内も確認しましょう。
第21条の2 始発から終電まで。
でも、すべての窓口が開いているとは限らない
第21条の2は、発売時間と発売区間のルールです。
発売時間は、原則として、その駅の始発列車に乗るために必要な時刻から、終発列車の発車時刻まで。

始発が出た後に、きっぷの発売を始めます
では、朝一番のお客さんが、駅前で途方に暮れます。そこはちゃんと間に合う設計です。
ただし、きっぷの種類ごとに、発売時間を別に定めることがあります。
つまり、この条文を根拠に、

終電まで、どの窓口でも、どんなきっぷでも買えるんですよね?
とは言えません。駅の列車の運行時間と、希望するきっぷを買える時間は、分けて確認する必要があります。
発売区間は、原則として、発売時間内に旅客が希望する区間。ただし、普通乗車券の発売区間は、別に定める場合があります。
「駅に着けば何とかなる」の「何とか」にも、営業時間がある。

早朝や深夜に使うきっぷは、余裕を持って準備しておきたいところです。
第22条 「いい感じの席で」は、申込書に書きにくい
第22条は、指定券と、それに伴うきっぷを発売するとき、購入申込書への必要事項の記入を求めることがある、と定めています。

明日の朝、大阪から東京へ。できれば、いい感じの席で
気持ちは伝わります。
しかし、「朝」も「いい感じ」も、発券に必要な情報としては少々ふんわりしています。
日付、列車、区間、人数などを具体的に伝えるため、書面への記入を求める場面があるわけです。
ポイントは、「必ず申込書を書かなければならない」ではなく、「記入を求めることがある」という規定であること。
窓口で紙を渡されたら、旅客営業規則が急に厳しくなったわけではありません。脳内の旅程を、発券できる情報に変換する時間です。

ちなみに、同行者との関係を「いい感じ」にする欄はありません。
そこは、きっぷの手配とは別業務です。
第22条の2 特別なきっぷには、特別な条件がある
第22条の2は、会社が特に必要と認める場合、特別な運送条件を定めて、一定の個人旅行用乗車券類や団体乗車券を発売できる、という規定です。
いつもの条件だけではなく、特別な条件を付けたきっぷを用意する余地があるわけです。
ただし、「個人旅行用乗車券類」は、ここで定義されている用語。普通乗車券、普通回数乗車券、急行券、特別車両券、寝台券、コンパートメント券、座席指定券を指し、定期乗車券はこの列挙に入っていません。

個人で使うから、何でも個人旅行用でしょ?
と読んではいけないところが、規則らしいところです。日常語に見えて、しっかり名札を付けています。
また、利用者が特定されるものを除き、発売駅・発売区間・発売期間などを、その都度、関係する駅に掲示すると定めています。
特別なきっぷを見つけたときは、商品名だけでなく利用条件まで確認したいもの。
「特別」の2文字を見て、脳内で勝手に「何でも自由」と翻訳しない。

旅行への期待と、きっぷの効力は、別々に膨らませましょう。
第23条 突然の「貸切」。
ここは対象となる病気を正確に読む
第23条は、本文がとても短い条文です。
伝染病患者に対して発売する乗車券は、貸切乗車券に限る。
ここだけ読むと、

感染症にかかったら、電車は全部貸切なの?
と驚くかもしれません。
しかし、この条文には重要な注記があります。「伝染病」とは、感染症法に定める一類感染症、二類感染症、一定の指定感染症、新感染症、新型インフルエンザ等感染症を指します。
指定感染症もすべてではなく、政令によって同法19条または20条の入院に関する規定を準用するものに限られています。
したがって、日常語としての「人にうつる病気」すべてを、この条文の対象にしてはいけません。
また、これは発売する乗車券の種類についての規定です。「貸切乗車券を買えば、ほかの乗車制限や公衆衛生上のルールに関係なく乗れる」という意味でもありません。
この条文では、勢いよくツッコミを入れる前に、注記まで読むのが大切です。

一行の本文に驚いて、注記で姿勢を正す。規則を読むときの基本動作です。
第23条の2
払いもどしも変更も、いつものルールとは限らない
第23条の2では、会社が業務上特に必要と認めた場合、払いもどしや乗車変更について、特別の約束をしてきっぷを発売できるとしています。
第22条の2が特別な運送条件を設ける話だったのに対し、こちらは、特に「払いもどし」と「変更」に焦点を当てた規定です。
きっぷを買うとき、目はどうしても価格に向かいます。

安い!

買おう!

予定が変わった…

えっ、変更の条件が違うの?
旅行前の四コマ漫画が完成してしまいます。
もちろん、特約があるから必ず不利になる、という条文ではありません。大事なのは、通常のきっぷと同じ取扱いだと決めつけないことです。
購入ボタンを押す前に、変更・払いもどしの条件まで読む。
旅行の予定は未来の話ですが、契約条件は購入時についてきます。
第23条の3 割引証は、旅行を始める前に出す
第23条の3は、旅客運賃割引証によって発売する割引乗車券について、原則として、旅行開始前に限って発売すると定めています。
例外は、駅員のいない駅から乗車する場合です。

割引証、持っています!

今、出します!

もう乗っていますけど!
という後出しを、原則として予定していないのです。
ここでの対象は、旅客運賃割引証によって発売する割引乗車券。割引商品すべての購入時期を、この条文だけで説明できるわけではありません。
割引証は、財布に入れてあるだけで自動的に効果を発揮する装備品ではありません。
旅行を始める前に、割引乗車券を買う手続きにつなげる必要があります。
旅の持ち物チェックには、「割引証を持ったか」だけでなく、
「その割引証で、きっぷを買ったか」まで入れましょう。
第24条 割引の資格は、友達に貸せない
第24条は、割引乗車券や割引証、通学定期乗車券、通学証明書などを不正に使用した場合の規定です。
資格のある本人が不正使用した場合や、資格のない人に使わせた場合、その資格者に対して、これらの乗車券の発売を停止することがあります。

自分は今日使わないから、友達に通学定期を貸そう

名前は違うけど、同じ学校だし大丈夫でしょ
そんな軽い気持ちでは済まない場合があります。

友情は共有できても、割引の資格まで共有できるわけではありません。
この条文が定めているのは、資格者に対する対象乗車券の発売停止です。不正使用に伴うきっぷの効力や、運賃・増運賃などは、別の条文の問題にもなります。
なお、「発売を停止することがある」なので、必ず一律に停止されるという書き方ではありません。また、あらゆるきっぷを買えなくなるとか、鉄道から永久追放されるとかいう規定でもありません。
規則が言っていることは、正確に読む。
ただし、不正を軽く見ない。
「ちょっと貸しただけ」が、自分の今後の購入にも響くかもしれないのです。
第25条
割引証の「無効」と「使えない」は、書き分けられている
最後の第25条は、割引証の状態を点検する条文です。
まず、第1項では、次のような割引証を使用した場合、無効として回収すると定めています。
- 記載内容が分からなくなっている。
- 表示内容を塗り消したり、書き換えたりしている。
- 有効期間が過ぎている。
- 有効期間内でも、使用資格を失っている。
- 名前の書かれた本人以外が使っている。

期限はまだ先だから、有効なはず!
と思っても、使用資格を失っていれば別問題です。

日付だけ生きていても、資格まで生きているとは限りません。
一方、第2項では、次のようなものは使用できないと定めています。
- 発行者が記入すべき事項が未記入、または発行者・使用者による必要な押印がない。
- 記入事項を訂正したのに、必要な証印がない。
こちらは、第1項の「無効として回収」とは分けて書かれています。
「無効だから回収する」と「この状態では使えない」は、条文上、同じ扱いではない。
地味ですが、読み飛ばしたくないポイントです。
そして、書類の不備を見つけたときに、

親切心で、こっちで書き直しておこう
と自己流で直すのも考えもの。訂正の証印が必要な場合がありますし、内容を勝手に改変したものを使えば、第1項の問題にもなります。
発行元に確認して、必要な記載や訂正の手続きを整えましょう。
割引証に必要なのは、創意工夫より正確さ。

旅のしおりでは自由な発想を発揮しても、証明書では発揮しない方がよさそうです。
改札に着く前から、旅は規則に支えられている
きっぷの種類、買う場所、買える日、特別な条件、割引証の使い方。
第18条から第25条までには、改札を通る前のルールが詰まっています。
旅客営業規則は、一見すると堅苦しい文章です。
でも、読んでみると、窓口で起きそうなやり取りがちらちら見えてきます。
「その駅からのきっぷも買えますか」
「まだ発売前ですか」
「この割引証、使えますか」
普段なら数秒で終わる会話の後ろで、条文たちが待機しているわけです。
さて、きっぷの買い方は予習できました。
あとは当日、余裕を持って駅へ行くだけです。
発売日は1か月前から計算できたのに、家を出る時間を読み違える。
そんな最後の落とし穴までは、旅客営業規則も埋めてくれません。

おそらく、現在、市販で買える唯一の旅客営業規則の解説本です。
♪BUMP OF CHICKEN「乗車権」(アルバム:ユグドラシル 収録)
