毎日の通勤・通学を支えてくれる定期券。
いつも何気なく使っていますが、旅客営業規則を開いてみると、「誰に、どの区間の、どんな定期券を売るか」が、きっちり決められています。
ところが、「通勤定期」なのに通勤していることは条件に出てこない。一方の「通学定期」は、学校や通う区間、証明書までしっかり確認する。
同じ「定期」の看板を掲げているのに、入口の受付方針がずいぶん違います。
今回は、定期乗車券と普通回数乗車券の発売に関する条文を見ていきます。
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- 1. 第35条 通勤定期乗車券の発売 「通勤」と名乗るが、就職先は聞いてこない
- 2. 第36条 通学定期乗車券の発売 学生証だけで開く、どこでもドアではない
- 3. 第36条の2 特別車両定期乗車券の発売 定期券にも、ちょっといい席の世界がある
- 4. 第37条 制限距離を超える定期乗車券の発売 100キロの壁に、ちゃんと扉がある
- 5. 第37条の2 定期乗車券の一括発売 定期券の有効期限にも、足並みをそろえてもらう
- 6. 第38条 割引定期乗車券の発売 通学定期の中にも、区分がある
- 7. 第39条 普通回数乗車券の発売 「11枚つづり」は、通学を支える形でも登場する
- 8. 第40条 通学用割引普通回数乗車券の学生割引証 書類にも、用途別の賞味期限がある
第35条 通勤定期乗車券の発売
「通勤」と名乗るが、就職先は聞いてこない
第35条は、通勤定期券を発売する条件を定めています。
- 原則として100キロメートル以内の区間であること
- 区間と経路を同じくして乗車すること
- 定期乗車券購入申込書に必要事項を記入して提出すること
有効期間は、1か月・3か月・6か月です。第2項では、購入申込書の様式も定めています。
ここで、条文をもう一度眺めてみましょう。
「会社に勤めていること」とは、どこにも書いてありません。
通勤定期という名前ですが、通勤以外の目的でも購入できます。たとえば、同じ区間を習い事や趣味で繰り返し利用する場合も、通勤定期の出番です。

勤務先はどちらですか?

ラーメン屋です

お勤めですか?

食べに通っています
そんな人でも、購入目的がラーメン通いであること自体は問題になりません。お得になるかどうかは、乗る回数と運賃次第。先に限界が来るのが財布なのか、胃袋なのかは別の問題です。
ただし、区間と経路は決めます。「今日は海を見たいので別ルートで」という気分まで、自由に引き受けるきっぷではありません。

通う理由にはおおらか。でも、通る道は確認する。それが第35条です。
第36条 通学定期乗車券の発売
学生証だけで開く、どこでもドアではない
通勤定期の次に登場するのが、通学定期です。
こちらは、単に「学生です」と名乗れば好きな区間を買えるわけではありません。指定学校の学生・生徒・児童・幼児が、原則として次の条件で通う場合が対象です。
- 自宅の最寄り駅と、在籍する指定学校の最寄り駅との間を、通学のために利用すること
- 100キロメートル以内であること
- 区間と経路を同じくし、順路で乗車すること
期間は、1か月・3か月・6か月です。

学校の先に推しのイベント会場があるので、そこまで通学定期でお願いします
気持ちはわかります。むしろ学校より足取りが軽い日もあるでしょう。しかし、熱意の大きさで学校の最寄り駅は移動しません。
購入には、学校が発行する通学証明書を提出するか、通学定期券の購入に使える所定の兼用証明書を提示し、購入申込書を提出する手続きが定められています。普通の学生証を見せれば、必ずそれだけで足りるわけではありません。
第2項は通学証明書の様式、第3項はその有効期間についての規定です。通学証明書は原則として発行日から1か月間有効。ただし、所定の有効開始日・有効期限が表示されているものには、その期間内の日を定期券の有効開始日とする条件があります。
ここでいう「1か月」は、証明書の期限。買った通学定期券が全部1か月で切れるという意味ではありません。書類ときっぷは、別々の時計で動いています。
第4項には、実習場などへ通う場合、JRが必要と認めれば通学定期券を発売する規定もあります。授業のために向かう先は、いつも学校の校舎とは限らない。その点も拾っています。
なお、この資料では、通信教育を行う学校について面接授業会場や試験会場も考慮されています。ただし、第39条第1項第1号に当たる放送大学の学生は、第36条の対象から除かれています。「通信制だから全員同じ扱い」とまとめると、条文に呼び止められます。
第36条の2 特別車両定期乗車券の発売
定期券にも、ちょっといい席の世界がある
第36条の2は、乗車券と特別車両券を1枚にまとめた「特別車両定期乗車券」の規定です。
対象となるのは、原則100キロメートル以内の区間で、全区間を普通列車の自由席特別車両に乗り、区間と経路を同じくする場合。購入申込書の提出も必要です。距離の条件には、別に定める区間の除外があります。
イメージとしては、普通列車のグリーン車を継続して利用するための定期券です。ただし、規則に載っているからといって、どの路線でも買えるわけではありません。

定期券もあるし、今日は新幹線のグリーン車にしよう
そこまで急に出世しません。条文が対象にしているのは、普通列車の自由席特別車両です。新幹線や特急のグリーン車に自由に乗れる権利ではありませんし、「自由席」なので、自分専用の座席を予約するものでもありません。
そして、有効期間は1か月か3か月。通勤・通学定期と違い、この条文には6か月がありません。

半年分、少し優雅な朝を確保したい
その希望に対して、第36条の2のメニューは、まず3か月までとなっています。
第37条 制限距離を超える定期乗車券の発売
100キロの壁に、ちゃんと扉がある
ここまで、定期券の条件には「100キロメートル以内」が繰り返し登場しました。
では、100キロを超えると、定期券の相談は即終了なのでしょうか。
第37条は、JRが特に必要と認める場合、100キロメートルを超える区間にも定期券を発売することがあると定めています。
原則を示したあとに、例外の入口を用意しているわけです。

100キロを少し超えています

では、定期券とは一生お別れです
という冷たい世界ではありません。
ただし、「発売することがある」です。希望すれば必ず買えるわけでも、どこまでも距離を延ばせるわけでもありません。
条件は、旅客が「特に強く希望する」ことではなく、JRが「特に必要と認める」こと。

窓口で気合いを入れても、営業キロは縮みません。
第37条の2 定期乗車券の一括発売
定期券の有効期限にも、足並みをそろえてもらう
第37条の2は、別に定める方法で、定期券を一括して発売することがあると定めています。
さらに、一括発売する定期券の有効期限をそろえる必要があるときには、所定の期間に端数の日数を付け加えて発売することがあります。
イメージとしては、まとめて扱う定期券について「有効期限を同じ日にそろえたい」といった場面です。

こちらは月末まで、こちらは翌月2日まで、そちらは3日まで…
管理する側のカレンダーが、定期券の更新日で埋まっていく。それを調整するための規定です。
ただし、これは一括発売に伴う期間調整の話。

私の定期券にも、おまけで5日ください
というサービスではありません。
また、第37条の2自体は「まとめ買い割引」を定めているわけでもありません。一括という言葉を見ると値引きを期待してしまいますが、ここでそろえるのは主に発売の取扱いや期限です。
第38条 割引定期乗車券の発売
通学定期の中にも、区分がある
通学定期券とひとまとめに呼んでいても、学校の課程などによって扱いが分かれます。
第38条は、通学定期券を発売する際、一定の学校・課程の児童、生徒、学生、訓練生に、割引の通学定期券を発売する規定です。対象と証明書の表示を整理すると、次のようになります。
| 対象 | 証明書の区分欄への表示 |
|---|---|
| 小学校の児童・中学校の生徒(条文所定の相当する課程・学部を含む) | 義務課程 |
| 高校の生徒(条文所定の相当する課程・学部を含む)・高等専門学校の第3学年以下の学生 | 高等課程 |
| 公共職業能力開発施設で所定の普通職業訓練を受ける訓練生 | 普通職業訓練 |
普通職業訓練の短期課程は、条文で定める中学校卒業者等向けの訓練期間1年のものに限られます。
注目したいのが、高専の「第3学年以下」という線引き。同じ学校に通っていても、学年によってこの条文の対象かどうかが変わります。「校門が同じだから扱いも同じ」とは限りません。
そして、証明書の区分は発行者が赤書きすると指定されています。
鉄道の規則は、区間や距離だけでなく、ペンの色にも目が届きます。ただし、学生が自分で赤ペンを取り出す場面ではありません。学校など、証明書を発行する側の仕事です。
第36条第4項の実習場等へ通う場合は、通学証明書の提出が必要です。通常の通学で使える兼用証明書の提示だけで済む、という扱いにはなっていません。
第2項では別の定めによる割引の余地を残し、第3項では提出する通学証明書に旅客運賃割引証の規定を準用しています。証明書を正しく扱うところまで、割引制度の一部です。
なお、具体的な割引率は別の条文の担当。「対象者を確認する係」と「金額を計算する係」は、ここでも分業しています。
第39条 普通回数乗車券の発売
「11枚つづり」は、通学を支える形でも登場する
回数券といえば、「何度も乗る人がまとめ買いするきっぷ」を思い浮かべる人も多いでしょう。
ただし、この第39条第1項が定めているのは、次の人に発売する通学用割引普通回数乗車券です。
- 放送大学の学生
- 通信教育を行う高校の生徒
指定学校の学生・生徒が、面接授業や試験のため、学校やその会場の最寄り駅まで、区間と経路を同じくして順路で乗車する場合が対象です。学校の代表者が必要事項を記入して発行した旅客運賃割引証を提出して購入します。
毎日通うとは限らなくても、授業や試験の日には移動が必要になる。その通学を支える仕組みです。
1組は11券片。ふだんの言葉なら「11枚つづり」ですが、規則が言うと「券片」になります。急に窓口から文書管理室へ移動したような響きです。
11券片は、11往復という意味ではありません。往路と復路にそれぞれ1券片を使うなら、5往復して片道分が1つ残る計算です。
第2項では、1券片の区間について、原則として営業キロ200キロメートル以内で、普通乗車券を発売できる区間に限っています。ただし、新幹線の新下関―小倉、小倉―博多にかかわるものは除外されています。
さらに、JRが特に必要と認めれば、200キロを超え300キロまでの区間に発売することもあります。定期券では100キロ、こちらは原則200キロ。距離の数字も、きっぷごとに持ち場が違います。
第3項には、別に定めるところにより、同じく11券片を1組とする割引普通回数乗車券を発売する規定があります。
したがって、「回数券はすべてなくなった」とも、「誰でも昔のように買える」とも、この条文は言っていません。看板だけで判断せず、今は誰に発売するきっぷなのかを見る。回数券にも、現在の役割があります。
第40条 通学用割引普通回数乗車券の学生割引証
書類にも、用途別の賞味期限がある
第39条で登場した割引回数券を買うには、どんな割引証を出すのか。それを決めているのが第40条です。
使うのは、第29条第2項に定める通信教育学校用の学校学生生徒旅客運賃割引証。学校の代表者が、乗車券の種類や乗車区間など、必要事項を記入したものを提出します。

学生証はあります

その学校に通っていることはわかりました。今回は、所定の割引証もお願いします
学生であることの証明と、割引回数券を購入するための証明は、同じものとは限りません。財布のカードを全部並べても、必要な1枚の代わりにはならないのです。
そして、この用途で使う割引証の有効期間は、発行日から1か月間です。
第29条にある通信教育学校用の通常の有効期間ではなく、第40条第2項が特別に定める1か月間が適用されます。同じ名前の書類でも、何を買うために使うかによって期限が変わるわけです。
ここでも、割引証の有効期間と、購入した回数券の有効期間は別の話。第40条の「1か月」を読んで、「回数券も1か月で11枚使い切るのか!」と通学計画を急に詰め込む必要はありません。回数券自体の有効期間は、第154条で確認します。
鉄道の旅は、きっぷを買う前から始まる。
ときには、学校でもらった書類の有効期限を確認するところから。

おそらく、現在、市販で買える唯一の旅客営業規則の解説本です。
♪Mr.Children「雨のち晴れ」(アルバム:Atomic Heart収録)
