電車に乗る。きっぷを買う。改札を通る。
普段は何気なくやっていることですが、その裏では「契約」が成立し、「旅行」が開始し、ときには距離の端数が容赦なく切り上げられています。
その舞台裏を支えているのが、JRの「旅客営業規則」です。名前だけで、すでに眠くなってきた方。まだ発車前です。
今回は、JR西日本の旅客営業規則のうち、第1条から第11条までの「総則」を読んでみます。途中に第3条の2・3・4があるので、実際には14条。11駅だと思って乗ったら、途中に3駅増えていました。
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- 1. 第1条 この規則の目的 お客さんもJRも、できるだけ困らないために
- 2. 第2条 適用範囲 「JRでしょ?」では、会社の境界は消えない
- 3. 第3条 用語の意義 新快速さん、あなたは「普通」です
- 4. 第3条の2 消費税等課税の運賃・料金 表示された金額には、税金も乗車済み
- 5. 第3条の3 消費税免税の運賃・料金 10%引きにすればいい、ではない
- 6. 第3条の4 バリアフリー料金を収受する場合の免税 足してから、税を外す
- 7. 第4条 運賃・料金前払の原則 「ツケで新大阪まで」は原則できません
- 8. 第5条 契約の成立時期及び適用規定 券売機の前で、あなたは契約している
- 9. 第6条 旅客の運送等の制限又は停止 「売っているだけ全部ください」に待った
- 10. 第7条 運行不能の場合の取扱方 線路がつながらない日に、規則はどうするか
- 11. 第8条 キロ数の端数計算 0.1キロにも、居場所はある。切り上げ先に
- 12. 第9条 期間の計算方 「今日はもう少ししかない」は聞いてもらえない
- 13. 第10条 乗車券類等に対する証明 「駅員さんがそう言ってた」を、きっぷに残す
- 14. 第11条 呈示・提出する書類 旅の終着駅に、まさかの「墨」
- 15. 改札を通る、ただそれだけにも規則がある
第1条 この規則の目的
お客さんもJRも、できるだけ困らないために
第1条は、この規則が何のためにあるのかを示しています。
対象は、旅客の運送だけではありません。入場券の発売や、携帯品の一時預りも含みます。その取扱いを合理的に定め、利用者の便利と、事業の能率的な遂行を図るのが目的です。
ざっくり言えば、「お客さんが使いやすく、JRもスムーズに仕事ができるように、共通ルールを決めておきましょう」ということです。
お客さん全員が「私だけ特別に」と言い出したら、列車より先に窓口の業務が止まります。一方、会社の都合だけで扱いが決まるのも困ります。
そこで、あらかじめルールを用意する。旅の自由を支えるために、舞台裏は結構きっちりしているのです。
もっとも、その「便利」を支える規則を読もうとすると、かなりの読解力が必要です。便利への道のり、思ったより険しい。
第2条 適用範囲
「JRでしょ?」では、会社の境界は消えない
この規則は、別に定める場合を除き、JR西日本の路線と、JR西日本の路線に他のJR旅客会社の路線がまたがる旅客の運送等に適用されます。
反対に、他のJR旅客会社の路線相互で完結するものは、その会社の定めによります。
利用者からすると、まとめて「JR」。でも、会社は別です。

いつもJR西日本に乗っているので、北海道でも西日本ルールでお願いします!
という、行きつけの店の常連特典のような使い方はできません。
線路はつながっていても、規則の適用範囲には境界があります。私鉄などとの連絡運輸も、この規則だけで全部片づくわけではありません。
鉄道旅では、県境を越えるより先に、会社の境界を越えていることがあります。
第3条 用語の意義
新快速さん、あなたは「普通」です
第3条は、この規則の辞書です。
「当社線」はJR西日本が経営する鉄道。「旅客鉄道会社」は北海道・東日本・東海・西日本・四国・九州の6社です。JR貨物は、この定義のメンバーに入っていません。貨車に乗って旅行する話を始めると、別の問題が発生します。
「駅」は旅客を取り扱う停車場、「列車」は旅客を運ぶ列車。「旅客車」には、客車・電車・気動車が含まれます。何でも「電車」と呼んでしまうと、ここで気動車が静かに手を挙げます。
そして、鉄道好きとして見逃せないのが、列車の分類です。
この規則では、「急行列車」は特別急行列車と普通急行列車。「普通列車」は、それ以外の列車です。つまり、新快速も、この規則の分類では「普通列車」です。
新快速「かなり駅を通過しているんですが」
規則「普通です」
新快速「名前に『新』も『快速』も付いています」
規則「普通です」
規則のいう「普通」と、駅の案内でいう各駅停車の「普通」は、同じ範囲ではありません。速さや停車駅の少なさだけで、規則上の急行列車になるわけではないのです。
ほかにも、思い込みで読むとつまずく言葉があります。
| 用語 | この規則での意味・ポイント |
|---|---|
| 地方交通線 | 別表第1号に掲げられた営業線。車窓ののどかさで判定しない |
| 幹線 | 地方交通線以外の営業線。名前の貫禄で判定しない |
| 新幹線 | 条文が列挙する線路名称で定義。「東海道本線(新幹線)」など、普段の案内とは違う表現も登場 |
| 新幹線停車駅 | 新幹線の特別急行列車の停車駅 |
| 特別車両 | 特別な設備のある座席車で、所定の表示をしたもの。自分が特別な気分になっただけでは該当しない |
| 乗車券類 | 乗車券・急行券・特別車両券・寝台券・コンパートメント券・座席指定券の総称 |
| 指定券 | 乗車日・乗車列車を指定して発売する、条文所定の券 |
| 未指定特急券 | 全車両指定制の列車について、所定の条件で座席の使用を条件とせず発売する特急券。「未指定」でも、定義上は指定急行券の一種 |
さらに、「旅行開始」の定義も独特です。
原則は、旅行を始める駅で、乗車券の改札を受けて入場すること。駅員無配置駅から乗る場合は、乗車することをいいます。家を出た時でも、駅弁を買った時でもありません。前夜に旅行動画を見ながらテンションが上がった時でもありません。

心の旅は前夜から。規則上の旅は原則、改札から。
この区別が、後の条文で効いてきます。
第3条の2 消費税等課税の運賃・料金
表示された金額には、税金も乗車済み
この規則に定める運賃・料金は、消費税と地方消費税に相当する額を含んだ金額です。つまり、規則上の金額は税込みです。
「目的地に着きました。では、ここで消費税を追加徴収します」
という、降り際のサプライズを予定しているわけではありません。
旅には思いがけない出会いがあると楽しいですが、精算額との思いがけない出会いは、できれば避けたいものです。
第3条の3 消費税免税の運賃・料金
10%引きにすればいい、ではない
消費税が免除される場合は、前条の税込額に「100/110」を掛け、1円未満の端数を1円単位に切り上げます。鉄道駅バリアフリー料金は、この条文の計算対象から除かれています。
ここで注意したいのは、税込額を単純に10%引きする計算ではないということです。
計算例として、税込1,100円なら、1,100円 × 100/110 = 1,000円
です。1,100円を10%引きすると990円になり、別の計算になってしまいます。
「税率が10%だから、10%引けばよさそう」
という直感は、ここで途中下車です。
なお、この条文が定めるのは、免税となる場合の計算方法です。「旅行が好きな人は免税」「外国人旅行者なら誰でも免税」といった資格を、この条文が作っているわけではありません。

鉄道愛の深さを申告しても、税額控除にはつながりません。
第3条の4 バリアフリー料金を収受する場合の免税
足してから、税を外す
旅客運賃と鉄道駅バリアフリー料金をあわせて収受する場合に、消費税が免除されるときの計算方法です。
こちらは、税込みの両者を合算した額に「100/110」を掛け、1円未満を切り上げます。

ポイントは、合算してから計算することです。
個別に計算してそれぞれ端数を切り上げると、合算してから一度だけ切り上げる場合と、結果がずれることがあります。
まだ総則なのに、もう計算の順序まで指定されています。
「細かいなあ」と思いますが、その細かさを省くと、今度は窓口ごとに金額が違うことになりかねません。1円の平和を守る条文です。
第4条 運賃・料金前払の原則
「ツケで新大阪まで」は原則できません
運送等の契約を申し込もうとするときは、現金で所定の運賃・料金を提供するのが原則です。ただし、JR西日本が特に認めた場合は後払いにできます。

いつもの区間、月末にまとめて払うから
という、行きつけの飲み屋方式が当然に使えるわけではありません。
一方、第2項には、所定の支払いに使えるものとして、ギフトカード、オレンジカード、Jスルーカード、ICOCA乗車券などが登場します。特に認めた小切手や為替証書等による支払いも定めています。
この条文を読むと、支払手段の名前だけで、少し時代旅行ができます。
ただし、規則に名前があることと、今どこでも購入・利用できることは別です。実際に利用できる支払方法は、それぞれの取扱条件によります。
「現金が原則」と書いてあるからといって、キャッシュレスが禁止されているわけでもありません。原則の隣には、例外や別の約款が控えています。
第5条 契約の成立時期及び適用規定
券売機の前で、あなたは契約している
別段の意思表示がある場合を除き、所定の運賃・料金を支払い、きっぷなどの証票の交付を受けた時に、運送等の契約が成立します。
紙のきっぷを通常の方法で買う場面なら、お金を払い、きっぷを受け取った時です。

これより旅客運送契約を締結いたします

異議はありません
と、券売機に向かって宣言する必要はありません。後ろの人が心配します。
第2項は、別段の定めがなければ、その後の取扱いも契約成立時の規定によると定めています。「どの時点のルールで扱うのか」を決めているのです。
そして、第3条との違いにも注目です。

契約の成立と、旅行開始は別のタイミングです。
きっぷを買って契約は成立した。でも、まだ改札には入っていない。そんな状態があります。
なお、ICカードやネット予約などは、別の約款・特則も確認する必要があります。「紙のきっぷを受け取るまで、絶対に契約は成立しない」と、すべてのサービスに広げてはいけません。
第6条 旅客の運送等の制限又は停止
「売っているだけ全部ください」に待った
旅客の運送等を円滑に行うために必要があるときは、発売や利用方法などを制限・停止することがあります。
対象は、きっぷ・入場券等の発売駅、枚数、時間、方法だけではありません。乗車区間や経路、列車、入場方法、手回り品の大きさ・重さ・個数、一時預りの取扱いなどにも及びます。
つまり、「乗りたい」「入りたい」「持ち込みたい」という希望に、いつでも無制限に応じる仕組みではありません。

列車にも駅にも、物理的な限界があります。情熱は定員に換算できません。
また、制限・停止をするときは、その旨を関係駅に掲示すると定めています。
「今日は何となく気分で断っています」という話ではなく、円滑な取扱いのために必要な措置として、利用者に知らせる仕組みです。
第7条 運行不能の場合の取扱方
線路がつながらない日に、規則はどうするか
列車が運行できず、不通区間があるときは、原則として、その区間内を目的地とする旅客や、その区間を通過しなければならない旅客の取扱いをしません。

「行けませんが、とりあえず売っておきますね」では、困るからです。
ただし、運輸上支障がなく、利用者が次の条件を承諾する場合には、きっぷを発売することがあります。
- 不通区間は、自分で方法を選んで旅行する。
- その不通区間に対応する旅客運賃の払い戻しを請求しない。
たとえば、不通を承知のうえで、その区間の移動方法を自分で確保し、この条件で購入する場面です。JRが何でも代わりに手配してくれるという意味ではありません。
第2項は、急行券・特別車両券・コンパートメント券・座席指定券にも、条件付きでこの例外を準用します。不通区間を通過する場合で、前後の乗車列車の接続を手配したときに限る、という限定があります。
一方、第3項では、JRが鉄道・自動車・船舶などによる連絡の措置を講じ、関係駅に掲示したときは、不通区間を「開通したものとみなして」取り扱います。
実際に線路が復旧していなくても、取扱い上は開通したものとする。「みなす」は、規則の世界の便利な道具です。ただし、唱えるだけで橋が直る魔法ではありません。

ここで特に注意したいのは、購入後に列車が運休した場合まで、一律に「払い戻しなし」としているわけではないことです。
きっぷの発売後に運行不能となった場合は、第282条以下など、別の規定が問題になります。「不通を承知で条件付き購入」と「買った後に運休」は、分けて考えましょう。
第8条 キロ数の端数計算
0.1キロにも、居場所はある。切り上げ先に
営業キロ、擬制キロ、運賃計算キロを使って運賃・料金を計算する場合、1キロ未満の端数は1キロに切り上げます。
計算に用いる距離が100.1キロなら、101キロとして扱う、ということです。

ほとんど100キロですよね?

101キロです
四捨五入ではありません。小数点以下に、粘り強い存在感があります。
ただし、これは運賃計算に用いるキロ数の処理です。駅と駅の間の距離を一つずつ切り上げてから、全部足すという説明ではありません。
また、1キロ増えれば運賃が必ず上がるという意味でもありません。実際の金額は、適用される運賃表やほかの計算規定によります。
「営業キロ」「擬制キロ」「運賃計算キロ」の使い分けまで始めると、それだけで次の列車に乗り遅れるので、今回は端数処理までにしておきます。
第9条 期間の計算方
「今日はもう少ししかない」は聞いてもらえない
期間は、初日を含めて数えます。しかも、初日は残り時間の長短にかかわらず、1日です。
条文の例では、3月20日から1日間は、3月20日のみ。6月1日から1か月間は、6月30日までです。

夜から使うので、明日の夜までで1日ですよね?
と、24時間制で交渉しても、この条文の基本は暦の日付による計算です。もっとも、個々のきっぷの効力や満了時の扱いには別の規定もあるので、この条文だけで「午前0時に必ず降りる」とまでは言えません。
月単位の期間について、最後の月に応当日がないときは、その月の末日が終期になります。11月30日から3か月間なら、2月末日までです。
さらに第3項には、日付をさかのぼって計算するときのルールがあります。
| さかのぼり方 | 計算のルール |
|---|---|
| 日単位 | 起算日を含めずに数える |
| 月単位 | 該当月の同じ日付。なければ、その月の翌月1日 |
| 月と日の組合せ | 先に日単位で計算し、その日を起算日として月単位で計算する |
たとえば、3月31日から「1か月前」を求める場面では、2月31日がないので3月1日になります。
前向きに期間の終わりを計算する場面の「月末」と、さかのぼる場面の「翌月1日」は、取り違えやすいところです。
カレンダーを眺めるだけの条文かと思ったら、意外と手強い。時刻表を読む趣味に、暦の計算まで付いてきました。
第10条 乗車券類等に対する証明
「駅員さんがそう言ってた」を、きっぷに残す
JRが、きっぷなどの契約に関する証票に証明をするときは、証明事項を記入し、相当の証印を押します。
何を証明したのかを、その証票に記録しておく仕組みです。

さっきの駅で、そう言われたんです

どのような取扱いでしたか?

優しそうな方でした
人柄の情報だけでは、次の駅に取扱内容が伝わりません。
そのための記載と証印です。

旅の記念に集めるスタンプとは役割が違います。
ここは弁護士として、少し親近感があります。「言った」「聞いていない」を減らすには、何を確認したかが形に残っていると助かります。
きっぷの小さな印には、意外と大きな仕事があるのです。
第11条 呈示・提出する書類
旅の終着駅に、まさかの「墨」
契約に関してJRに見せたり提出したりする書類は、墨・インキ・ボールペンで記載します。特に定めるものには証印も必要です。

最初に出てくるのが、墨です!?
新幹線もICカードも出てきた総則の最後で、急に硯の気配がします。
もちろん、窓口で墨をすることを求めているわけではありません。ボールペンで大丈夫です。ここで書道を始めると、後ろの列が成長します。
発行日付などは、元号表示の書類でも西暦で記載できます。
また、記載事項の一部を訂正した場合は、原則として訂正箇所に相当の証印を押します。ただし、前項後段の西暦による記載の場合は除かれています。
第3項は、提出された書類やその記載事項の使用目的についてのルールです。JRが別に明示した場合を除き、運送等の契約に関してのみ使用すると定めています。
筆記具の話から始まり、最後は情報の使い道まで。見た目は地味ですが、書類の作り方・直し方・使い方を受け持つ、働き者の条文です。
改札を通る、ただそれだけにも規則がある
総則を読んだだけで、新快速が「普通列車」に分類され、旅行の開始地点が定義され、0.1キロは切り上げられ、最後には墨まで登場しました。
普段、私たちはこうした条文を意識せずに列車を利用しています。それでも、きっぷを買った時と使い始めた時を区別したり、動かない区間をどう扱うか決めたりするには、共通の言葉とルールが必要です。
何気ない鉄道利用の裏に、これだけ細かな仕組みがある。その仕組みをのぞいてみるのも、鉄道の楽しみ方の一つです。

おそらく、現在、市販で買える唯一の旅客営業規則の解説本です。
♪BUMP OF CHICKEN「銀河鉄道」(アルバム:present from you収録)
